年をとるにつれて繁華街の酒場に飲みに出ることが殆どなくなったが、友人のNに誘われた場合は二つ返事で街に繰り出す。例え断酒中でも断らない。
大学時代の同級生であるNとは30年以上付き合いになる。飲むときの話題の大半はくだらない馬鹿話や学生時代の思い出話の類だが、時折真面目な話もすることがあり、生きていく上での価値観を確かめ合い共有して勝手に友情を感じている。
40代半ば、最初は私が、続いてNが市民マラソンに目覚めて、フルマラソン大会やハーフマラソン大会で一緒に出場していた。大会の数日後には打ち上げと称してビアジョッキ片手にマラソン談議に花を咲かせることも多い。
青臭さの残ったくだらない、くだらない、誠にくだらない話を衒うことなく互いにできる友人は今では一握りしかいない。
2月の最後の日曜日、早朝の始発便でNは東京に旅立った。
さらば地球よ、旅立つ船は♪
イスカンダルに旅立つ程大げさなものではないが、愛媛から東京に居を移すのだから今までのような頻度でビールやハイボール片手に馬鹿話はできなくなる。
搭乗手続きを終えたNに彼が聴きそうにもないクラシックのCDを敢えて餞別代りに渡した。
ターミナルの2階で彼の細君が撮ってくれた二人の写真は32年前、大学の卒業式に一緒に撮った写真と少しも変わらない・・・訳がない。
大学を卒業して友人や恋人と離れ離れになって初任地に赴いた感情とも少し似ている。
春はうら悲しい季節なのだ。
現在マラソンのサブ4ランナーのNの座右の銘は「走姿顕心」。
走る姿にその人の心が現れるという意味である。
私の方といえばマラソンを数年休んでいたせいか少し健康を損ねてしまっている。
それでも私の座右の銘は「健康第一」である。
再び走ることのできるように鍛錬して肉体改造する所存。
【総務部 S・A】