久しぶりに万年筆を買った。
寄る年波のせいか万年筆で手帳やノートに書き込みたくなってきたのだ。
買ったと言っても高級品ではなく、PILOTの「カクノ」という1000円前後で購入できるカジュアルなエントリーモデルの万年筆。
2013年より売り出されている大ヒット商品だ。
高級なイメージの万年筆だが、複数の色を使い分けしたいのでリーズナブルなのを何本か所有して、ペン先の太さや色を変えて使い分けたいと考えた結果、「カクノ」にたどり着いた。この「カクノ」、当初メーカーは1年間で15万本の販売目標だったのが、半年で30万本も売れているらしい。廉価であるがゆえに気軽に万年筆の書き味を楽しむことができるのがヒット商品となった所以か。
若い頃、役所で事務の仕事をしていたときに使用していた、というか義務付けられていたのがデスクペンという卓上用というか事務職用のペン先の細い万年筆の一種だ。
官公庁の慣習なのか、業務の書類などにボールペンを使うことは禁じられ、帳簿やその他の手書きの書類はデスクペンを使用していた。
当時の職員の給与は現金で支給されており、給料袋の表が給与明細になっていた。
臨時職員の給料袋にデスクペンで基本給や各種手当の支給金額、そして健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税などの差引(控除)金額を記入するのが私の役目だった。
職員の名前や金額を間違えないようにデスクペンで慎重に記入してから紙幣や硬貨を給料袋に入れて糊で封をする。
その他に思い出す書類と言えば、在庫を管理するための消耗品受払簿。これにもデスクペンで記入した。
給料袋には大切な名前や金額を記入するし、消耗品受払簿は自分以外の誰が見ても一目瞭然でわかるようにしなければならない。
給料袋の給与明細にしても消耗品受払簿にしても、日本中の職場からは消えてしまった。
1995年のWindws95の誕生により、パーソナルコンピュータが職場でも家庭でも身近になり、オープン化の波に呑まれた業務用のオフィスコンピュータの多くがWindws系OSのパーソナルコンピュータに置き換えられていった。
その頃から「書く」という作業が減ってきて、国民の多くは漢字を書くことができなくなってしまった。
私は文字を書くのが下手だ。子供の頃、毛筆や硬筆などを本格的に習ったこともなく、習字の授業が苦手だった。
学生時代に板書をノートに写したもの、社会人になってからのメモしたものは、自分自身でも後から読み返すのが忍び難い。
とっさに短時間で綺麗な文字を多く書いている人を見ると羨ましくなる。
万年筆はその人の個性が出やすい筆記用具である。
下手な字ではあるが、丁寧に他人や自分が読み返すことができる文字を心を込めて書いていこう。
藤原実資の「小右記」のように後世の人に読まれることはないものの。
字は体を表す?
【総務部 S・A】